第113話 本来の正解
※ミウとバノンが網で捕らえられてキエルとフロアがドンパチやるちょっと前くらいに時間が戻ります!戻りました!
俺はエメルド・アイフレンド!ごく普通の村人だ!
さらわれた弟がこの街にいると思って道行く人々に聞き込みを始めたけどみんな教会のことばっか言って全然手掛かりがない!今のところハンバーガーとポテトをむしゃむしゃするしかできない!
「なあ。どうすれば良いと思うヨイテ?やっぱり教会になんかありそうなんだけど、偉い人に会うのに予約一週間待ちとか言われたしなあ」
「馬鹿正直に予約時間を守るやつがどこにいるクソザコヘタレピヨピヨ野郎!」
「えっ侵入すんの!?」
「分かっているじゃないか。住民は認識阻害されているようだが、現場の状況から推測できる情報を繋ぎ合わせると、ここ数日に渡って建物が外敵に攻撃されているようだ。実際損傷が激しい箇所の目星はつけてある。なお新聞社も倒壊しているが混乱しすぎて情報が錯綜している。関連は不明だが同じ勢力による破壊活動が行われているのかもしれない。ただその正体は掴めていない」
「結構危ない街じゃねーか!なんか死体があちこち歩き回ってるのに街の人全然気にしてないし!こえーよ!都会ってどこもこんな感じなのか!?なんて場所にミラディス誘拐してきたんだよじーさん!」
「わめくな。教会にマセリアがいる可能性が高い以上、見た目以上に内部は丈夫だろう。認識阻害は私達には効いていないことから聖遺物の効果だと断定していい。ならばマセリアなりその仲間の聖遺物使用者なりと破壊活動をしている連中がドンパチやっている隙に、それでも無事を確保できるような一番守りの固い場所をあたればそう時間はかからない」
「一番守りの固い場所ってそんな簡単に突き止められるか?結局入口の方であーでもないこーでもないってしてるうちに追い出されそうな気がすんだけど」
「あいつの能力ひとつで抜け出せるほど簡単ではないからお前が来たんだろうがウスラトンカチボケなすび!追い出されて素直に出ていくようなボンクラ魔導士に育てた覚えはない!」
「それつまり魔法でゴリ押ししろってことじゃん!」
「そうとも言える」
「そうとしか言わねーよ!」
という作戦(?)会議を経て、今教会の中にいる。
侵入とかそういうの通り越して、ついさっきでかい害獣に踏み荒らされたみたいに門とか壁とか窓とかあちこちが鮮度の高い壊れ方をしていた。天井が崩れてパラパラ言ってるし階段には変な足跡……?というか焦げた線みたいな跡がついてるし、教会の人々もアワアワ忙しそうに走り回ってる……というか半ばパニックだし、普通にヨイテと二人でそろーっと入っても誰にもつっこまれなかった。大丈夫なんだろうかこの教会。
「結構オープンな感じなんだな」
「そこらじゅうの壁に穴が空いているからオープンとか言うなよ流石に殴るぞ」
「だっていくら忙しいとはいえ部外者スルーするか?」
「認識阻害の効果範囲に私達の存在も入っているのかもしれない。運用上のミスか恣意的なものかはわからないが、後者なら確実に罠だ。のんびりしている時間はないぞ」
「とはいえ普通に歩いて……普通っていうか風起こして浮いてるけど、まあ普通に最上階っぽいとこ着いたな」
「一番損傷が酷い部屋はここか。中で戦闘が起こった形跡が、……!」
「どうしたんだ」
「壁に刀傷がある」
「……っ!」
「この鋭さと威力、弟かもな」
「……それで」
「火薬の匂いもする。だがここで爆発か何か人命に関わる事件が起こったにしては血痕も肉片も一切ない、妙だな」
「でも怪我はしてるかもしれないんだよな?」
「いや、わからん。さっぱり状況がわからん。かなり高度な隠蔽工作が行われているのか?」
「なんだよそれ……!」
壁を睨みつけるヨイテの眉間の皺が今までの中で一番深い。よっぽどトリッキーな奴がいるんだろうが、そいつが敵か味方かわからないのなんか悩むに決まってる。
ミラディスが戦わなきゃいけなかったことの方が俺には重大なんだけど。安否もわからないし嫌な想像ばかり膨らむ。
「他の部屋も調べた方が良さそうだな」
「あっちょ、待っ…………つ……」
「……どうした」
「いやなんでもない」
「なんでもないわけあるか。顔色が悪い。何かあったらすぐ報告しろと言ったはずだが?辛気臭い顔が余計辛気臭くて邪魔だ。私が調査している間、床でも拭いておけ」
そう言って部屋を出ていこうとするヨイテの肩を軽く押さえて引き留めようとした。大丈夫だから単独行動しなくていいって言おうとした。
でも思ったよりふらついてしまって、ヨイテにもたれ掛かるように崩れ落ちて膝をついてしまった。
「おい」
「ごめん」
「……じっとしていろ」
「大丈夫、原因はわかってる。なんかここの空気、合わないっぽい。それだけだから。慣れたら大丈夫」
「ちっ」
めっちゃでかい舌打ちをされて腕を引っ張り起こされる。容赦ないな。とはいえ俺もこんなところで止まっているつもりはない。わざと大袈裟めに背筋を伸ばして、廊下の奥の方にある部屋に向かう。
「ヨイテは何も感じない?」
「お前が何を感じ取っているのか先に言え」
「『何』かはわかんないよ。でもなんか、すごい濃い。俺より強いものが近くに存在してるような、変な感覚」
「お前より強い、か。今のお前なら私でも殺せるが」
「そういう意味じゃなくて……」
「いや、分かる。お前は全身の魔力で強力な聖遺物の気配を感じ取っているんだろう。そこまで要領を得ないのなら、おそらく複数の効果が絡み合っている」
「分かるんなら意地悪言うなよ……あ、そこの部屋なんか他のより気持ち悪い」
「聞き込みよりお前の感覚頼りの方が情報収集できている気がするな。開けるぞ」
辿り着いた部屋はなんだか奇妙な構造だった。鍵付きの部屋の中に小部屋が三つあり、それぞれにベッドや生活用品が置いてある。共有スペースにはテーブルと椅子があり、テーブルの上や小窓のへりに切り花が生けてある。
なんにせよ住人は不在のようだった。
「なんか……部屋って感じだな」
「部屋の扉を開けて部屋でないわけがあるか」
「いやあの、子供部屋とかそういう意味の、人が暮らしてる部屋っていうか。こんなの教会にあるんだ…………ってこれ!」
「落ちているな、枕に髪が。紫の」
「…………これ、間違いないと思う。長さがちょうどこんな感じ。布団のにおいとか皺の感じとか、ミラのやつって言われたらすごいしっくりくる」
「ちなみにこれが他のベッドから見つけた黄緑とピンクの髪だが」
「えっそれは知らない」
「両方結構長いぞ。黄緑の方は花の香油の瓶があったから女だろう。ピンクの方は何だこれ、壊れた鎧が隅に置いてあるしなんか暗い。あと扉が中から破壊されていないか?」
「は?は???」
「というか家具もえらく細身のものが多いな。おい、人違いじゃないか?少女三人の部屋ではないか?」
「いやそれはないだろ!絶対これミラの髪だって!それに壊れた鎧を部屋の隅に置いてて扉を破壊する女の子とかいるわけないだろ!」
「弓を背負った女の前でそれを言うか」
「それに知らない女の子と寝泊まりするような男に育てた覚えはない!」
「お前が私の前でそれを言うか!」
「どうしようミラが怖い女の人に不純なこと色々されてたら!」
「お前が私にやらかしてきた諸々以上にまずいことがあってたまるか!胸に手を当てて己の行いを少しは反省しろゴミカスが!」
手掛かりを見付けたようで更に頭の中が混乱してる。情報があるのはわかった、だからなんだって言うんだってレベルでわけがわからない。
だけど気付いたことはある。
「……生活の形跡も戦闘の形跡もあるのに近くにいる感じがしないのっておかしいよな?」
「ああ。この階に人気が全くない。不気味なくらいだ」
「ここにいた人達みんなどこかに移動したってことか?」
「だろうな。隠し通路があるのかもしれない、くまなく捜すぞ。風魔法を発動させておけ、空気の流れが不自然なところがあるかもしれない」
「分かった!」
そうして扉の裏とか壁の中の隠しスペースとか鍵が壊れた部屋とか色々調べて、大きい部屋のカーテンを全部閉じると光って浮かび上がってくる文字を頼りに棚の後ろのダイヤルを回して、カチッと音がした別の部屋でまたパネルを嵌め込む暗号みたいなのを解いて、指定の順番通りに本棚の本を並べ替え、現れたレバーを引くと床からせり上がってきた扉を開けた。
「いや手順が複雑!」
「私達は遊ばれているのか?設計した奴はふざけているのか?」
扉の向こうには下へと続く階段があり、先が見えないくらい深いことが見てとれた。正直うわあ……って感じではあったけど、ここまでやってハズレなことはないだろう。この先にミラディスがきっといるはずだ!
不安が膨らむのを感じながら、俺は階段を降りていった。