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第102話 どこにでもいる人

ハルカがアクセルをいくら踏んでも車はもう動かず、タイヤがキュイキュイ鳴るだけだ。

ヒビの入ったフロントガラスの向こうに私は懐かしい姿を見る。にっこりと笑みを浮かべた血まみれの顔が夜闇の中、ライトに下から照らされる。

不気味だし、パニックだったのもあってめちゃくちゃ怖かった。でも皮肉なことに、これ以上逃げようがなくなってから頭が動くようになる。


「あれはパパじゃない」

「そうだ、ミウ。あれ、ミナギじゃない」

私と同じく身体を車の中で打ち付けたアンソニーが私の呟きに相槌を打った。


そう、私が真っ先に気付くべきだった。

私がおかあさんのクローンなのと同様に、パパのクローンだってこの世にいっぱいいる。むしろパパの顔をした男の人の方が、そうじゃない人よりもよくいる。ほとんどそうだって言ってもいい。

そんでもって、私と同じ顔をした人は政府側の人間だからみんな敵。パパと同じ顔をした人だってきっとそう。


だからつまり今私達は三人まとめて移動手段を止められて敵に追い詰められてる。

駄目じゃない!やばいでしょこの状況!怖がってる場合じゃない!

そんな風に思いながらハルカの方を見ると、ハンドルから手を離してしまってる。

それどころか暗い中でもわかるくらい顔色が真っ白になっていて、下を向いて手で口を覆いながら震えてる。


「ハルカ、だいじょうぶか」

「ああ、やっと止まってくれた」


アンソニーが声をかけると同時に、パパじゃない人の声が聞こえた。

彼がカードのようなものをかざすと、扉にかかっていたロックが勝手に外れる。

そのまま流れるような手付きで運転席の扉を開けてシートベルトを外しハルカを引きずり出す。というか、抱き上げると言った方が近い。


「ちょっと!」

まずいと思いながらも狭い車内で思うように身体を動かせない。

もたつきながら車から出る私とアンソニーに彼は声をかける。

「危害を加えるつもりはないよ」

「ハルカを、はなせ……!」

「こんな弱っている子を歩かせるわけにはいかないよ。君達も疲れたろう、迎えを呼ぶから良い子にして待っていなさい」

「はなせ!」

「だめ……アントン……!」


パパじゃない人に飛びかかったアンソニーがすっ転ぶ。

「うわ!」

「アンソニー、大丈夫!?」

「危ないじゃないか。まずは話を聞いてくれないか」

おかしいな、アンソニーの方が間合いが広いはずなのに。単純な足払いで転ばされるはずないのに。

でも、パパじゃない人の立ち位置がさっきより私達に妙に近付いてるのはわかる。

つまりは移動の予備動作が少なく、足運びが静かすぎて対処しきれないって話なんだけど、それがわかったところで私にどうすることもできない。ハルカは敵の腕の中で、アンソニーは転がってるんだから。彼は困ったような声色で話しかけてくる。


「君達を保護することが私の仕事だよ。殺しに来たわけじゃないから安心しなさい」

「保護って何よ、政府が私達を生かす理由なんかないわよ!」

「聞いてくれ。君達は祖に唆されてテロ行為の一端を担わされた。やったことは犯罪だが、同時に被害者でもある」

そう言いながら彼はふと車のミラーを見やり、少し驚いた表情を浮かべる。

「うわあ、額が切れてる。顔が真っ赤だな、驚かせただろう。すまない」

少し眉を下げながら笑顔を戻すけど、かえってそれがより一層不気味なことになんで気付かないのかしらこの人は。

「私達をどうする気!?」

「うーん、裁判……になるかは微妙なとこだなあ。とにかく場所を移した上で色々手続きがあるんだ。君達の話をちゃんと聞いてから措置が決まるし、いきなり罰せられるわけじゃないよ。どうなるにせよ教育と医療を受ける権利はあるし生活のことは心配しなくて良い、とだけは言えるね」


私達は命を賭けて戦ってきた。それなのにこの期に及んで政府に保護されるとかいう信じられないことを言ってくる。そもそもおかあさんやパパの死について何も言わないことが怪しいし信用できない。

でもパパと同じ顔と声で、パパと違う表情と声色で、パパよりずっとわかりやすい話し方をする。


「あなた誰なのよ」

「私はマセリア。市民生活局の職員だよ」

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