天狗様のおくりもの
お子様に読み聞かせられるお話を意識しております。
昔々、ある村の竹林に、子ども好きの天狗様がおりました。
竹林の横には村の子どもたちが遊ぶ野原があります。
天狗様はいつも竹林から子どもたちを見守っておりました。
「ケガをしてないな」
「ケンカはしてないな」
みんな元気で良い子ばかりです。
でもその中で一人、天狗様は気にかかる子がおりました。
タツ坊です。
タツ坊はお母さんと二人で暮らしています。
家は貧しく、いつも腹を空かせているのです。
それなのにタツ坊はいつも笑顔を絶やしません。
お母さんの手伝いもするし、友達とケンカもしません。
自分だけボロボロの着物を着ていても、文句一つ言わないのです。
いつも頑張っているタツ坊に、天狗様はご褒美をあげたいと思いました。
「タツ坊に食べ物をやろう」
天狗様はタツ坊がよく座る野原の岩に、熟れた柿を置きました。
タツ坊たちが、野原にやって来ます。
「あれ、柿がある」
タツ坊はすぐに柿に気付きましたが、なかなか手を出しません。
天狗様が不思議に思っていると、タツ坊はみんなにこう言います。
「落ちてる物を食べたらダメだって、おっかぁが言ってた」
確かにそうです。
天狗様は頭を抱えました。
すると食いしん坊のしんちゃんがやって来て、「あっ」という間に柿をペロリと食べてしまいました。
「うまいぞぉ、でも足りないぞぉ」
タツ坊も子どもたちも、「全くしんちゃんは食いしん坊だなぁ」と笑います。
天狗様はどうしたものかと悩みました。
次の日、天狗様は着物を用意しました。
タツ坊にちょうど良い大きさの、新しい着物です。
天狗様は岩の上に着物を置きます。
タツ坊たちがやって来ました。
「あれ、着物がある」
みんな着物を珍しそうに見ます。
誰かが「タツ坊にちょうど良い大きさだ」と言いました。
でもタツ坊は「おらの物じゃないよ」と首を振ります。
「きっと誰かの落とし物だ」
「みんなで元の持ち主に返してあげよう」
タツ坊たちは着物を抱えて、村の家々を回って着物の持ち主を探しに行ってしまいました。
天狗様は慌てましたが、どうする事も出来ません。
その後、なぜか着物の持ち主が見つかったらしく、みんなは嬉しそうに戻って来ます。
天狗様は心の中で子どもたちに謝りました。
次の日、天狗様はどうしたものかと、野原で遊ぶ子どもたちを眺めていました。
ある子が「父ちゃんが作ってくれたんだ」と竹とんぼを見せます。
「良いなぁ」
「僕も欲しいなぁ」
みんな竹とんぼに夢中です。
タツ坊もしきりに「良いなぁ」と言っていたのを、天狗様は聞き逃しませんでした。
「なるほど」
天狗様は良い事を思い付きました。
次の日、天狗様は岩の上に、けん玉を置きました。
タツ坊たちがやって来ます。
「あれ、けん玉だ」
けん玉にはタツ坊の名前が彫られています。
みんなが「誰かがタツ坊にくれたんだよ」と言います。
タツ坊は少し迷っていましたが、嬉しそうにけん玉を手に取りました。
「これで良し」
天狗様が満足していると、タツ坊たちはけん玉を回しっこして遊びだしました。
みんなで仲良く順番にけん玉遊びをしているのを見て、天狗様ははっとします。
みんなが良い子である事を思い出したのです。
次の日、子どもたちが野原にやって来ると、岩の上に沢山の竹筒が置いてありました。
「何だろう?」
「竹の水筒だ!」
「僕たちの名前が彫ってある」
「誰が作ったんだろう?」
竹で出来た水筒は、タツ坊だけでなく、子どもたち全員の分がありました。
大喜びする子どもたちの笑顔を見て、天狗様も優しく笑いました。
めでたし、めでたし。




