ポンコツメイドと魔王の坊ちゃん
短編です!よかったら感想ください!!
ここはとある世界の魔王城。私、アルドレ•ヴァーミリアンは、魔王様に仕えるメイドをしています。私もこの城に使えて300年、だいぶ古株となってしまいました。そうは言ってもまだ私は人族でいう20代前半、それなのになぜ古株になってしまったのかというと、魔王のご子息、ベル様が原因なのです。
というのもベル様はたいそうワガママで、それに根をあげたメイド達が次々とやめて行くのです。もって2年といったところでしょうか。私が坊ちゃんの担当になってからこの1年、毎日振り回されています。ちなみにベル様は人族でいうところの10歳くらいでしょうか。しかし侮ってはいけません。そこは腐っても魔王のご子息、見た目は可愛くともその強さと傲慢さには10歳ながら磨きがかかっているんです。
私の1日はベル様を起こすことから始まります。これが1番の難関です。坊ちゃんは寝起きが悪く、起こすといつも機嫌を損ねてしまうのです。こればかりはいつまで経っても慣れません。
「ベル様〜朝ですよー。起きてくださーい……」
分かっています。こんなことでは坊ちゃんは起きやしません。悪魔なのに天使のようなこの寝顔に、ついつい優しくしてしまっただけなのです。
冗談はさておき、坊ちゃんを起こすにはマンドラゴラという叫ぶ植物を使います。しかしこの植物の叫びを聞いてしまうと、大抵のメイドは気絶してしまいます。マンドラゴラを扱えるかどうかも、坊ちゃんの側近には必須のスキルなのです。少し格好をつけてしまいましたが、耳栓を付けているのは内緒にしておきましょう。
ではいきます。よいしょ!
「ゔあああああああぎゃああa¥€=mjqja!!!!」
ねぇ、すごいで叫びでしょう?耳栓をしていても鼓膜が破けてしまいそうです。坊ちゃんもきっとこれで起きてくれるはずです。あ!思った通り、坊ちゃんが眉を潜めてなにか喋っています。
「ん、うーん、で、デス、デスメラゾーm」
「わ!だめだめ!!ベル様!!起きてください!!」
私は急いでベル様の口を塞ぎます。
「ん!ゴホッ!なんだよ!!息が出来ないだろうアルドレ!!」
ゴツン!!
早速ベル様にげんこつを喰らってしまいました。でも無事に起きてよかった。
「だって、ベル様が寝ぼけて爆裂系の最上級魔法を使おうとするから……」
ベル様は一度寝言で城を半壊させたことがあります。あの時は正直引きました。いや本当に。
「うるさい!お前が無理矢理起こそうとするからだ!!」
「うー、すみません」
「それより今日の朝食はなんだ?」
「はい、本日は賢者の森で取れた麦を使用したパンと、賢者の森で取れた豚を使用したベーコンと、賢者の森で取れた卵を使用したスクランブルエッグでございます」
「お前、賢者の森ってつければなんか凄みが出ると思ってるだろ……というかなんだそのメニューは!庶民と変わらないじゃないか!!」
「ヒィ、すみません!それでは賢者の森で取れた牛乳を使用したバターもおつけしておきます!!」
「アルドレ…お前は僕を馬鹿にしているのか……」
「いえ!そんなことはございません!!」
「まあ、いい。それより、今日のスケジュールはどうなっている?」
「はい!本日の予定は……?」
「どうした?」
「スケジュール帳を無くしてしまいました〜。どうしましょう〜」
「知るか!自分で考えろ!!お前もう300年以上ここで仕えてるんだろ?しっかりしろよ。親父もなんでこんなやつ雇ってんだか」
「誰がおばさんですか!!」
「言ってねーよ!!普通に皮肉ってるだけだわ!!そーかぁ、まあしょうがねぇなぁ。今日は休みだ休み」
坊ちゃんが少し悪い顔をしています。
「わーい!休みだぁ!!」
「お前が休みとは一言も言ってねーぞ。お前には罰を受けてもらう」
そんなことだろうと思いましたよ。というか毎日こんな感じです。うぅー、またきついお仕置きが始まります。
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「おらぁ!城内を一人で雑巾がけしろぉ!!」
「はい〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」ダダダダダダダダ
「ぬぅ!今度は買い出しだ!!馬車は使うなよ!!骨が砕けるまで往復しろ!!!」
「分かりました〜〜〜〜!!!!」シュババババババ
「くそ!!次はあの山に潜むドラゴンを倒してもらう!!魔法や武器は使うな!!」
「お安い御用です!!!」ボコボコボコボコボコ
「嘘だろ!?なら次は………」
そうこうしているうちに、1日は終わりを迎えました。
「ベル様、夕食の準備ができました」
「今日のメニューはなんだ?」
「はい!本日のメニューは賢者の森で取れた鶏肉を使用しt...」
「いや、もういいや」
「どうしたんですかベル様?お疲れの様ですが」
「むしろお前がピンピンしてるのが驚きだよ。今日はいつもの倍以上嫌がらせをしたのに……」
「え?嫌がらせ?」
「そうだよ。僕はな、メイドが大嫌いなんだ!!どいつもこいつも僕の事なんか尊敬してないくせに、ペコペコ頭下げてさ!僕は知ってんだぞ!お前らが裏で僕のことどう言ってるか。嫌なら嫌ってお前も言ったらどうだ!?」
坊ちゃんがこんなことを思っていたなんて、私は知りませんでした。でも、坊ちゃんが思いを打ち明けてくれたなら、私もそれに応えなくては。
「そうですね……確かにベル様は裏で、とんだ親の七光り傲慢ゴミ屑わがまま野郎って、みんなに言われています」
「え、俺の知ってるのと違うんだけど……」
「でも!私はそうは思いません!!年の割にはしっかりしていて、確かにワガママで傲慢だけど、ベル様は魔王になるべき器だって、私は信じています」
「アルドレ……」
「さあ、夕食を食べしょう!明日からも頑張りますよ!!」
「ああ、そうだな」
坊ちゃんの嬉しそうな顔を初めて見た気がします。
ガタン!!
手が滑って、賢者の森で取れた大豆と山菜を使用した味噌汁が、坊ちゃんの顔面にかかってしまいました。
「おいアルドレ……分かってるな?」
「ヒィー!!お許しを〜〜〜〜!!!」
やっぱり坊ちゃんは傲慢でワガママですが、いつの日か立派な魔王になることを、私は心から願っています。