2話
母親は父親に冬四郎は晃と、普段からの鬱憤でもあったのか、それを晴らすかのように文句を言っては、分かる分かると言い合っている。
一緒に呑む事はあっても、そんな愚痴を言わない冬四郎が珍しくも、あれこれと言っている。それも相手は母親だった。その珍しすぎる光景を、むつはしげしげと眺めながらビールを呑んでは、グラスに継ぎ足し、缶が空になれば冷蔵庫に取りに行ったりとしていた。
2人の愚痴を聞き流しつつ、むつは父親と晃も今頃は、こんな風に呑んでたりするのかと考えてみた。そして、やはりこちらと同じ様に愚痴を言い合っているのだとしたら、それは面白い気がしたのだ。
家族の仲はいいと、むつは思っている。それでもやはり愚痴は出るし、お互いに遠慮したり我慢している部分もあるんだなと思うと、少しだけほっとしていた。
兄たちが両親が、自分に気を遣ったりしているのは、血の繋がりどうこうではないと、そう思えたからだった。だが、自分が気を遣う理由としては、やはり引け目を感じているからではないかと、思わずには居られず、むつは溜め息を吐きながら、冬四郎のタバコに手を伸ばした。そして、重たいような溜め息と一緒に、煙を吐き出すのを冬四郎と母親が気遣わしげに見ていた事などは、ちっとも気付かなかった。




