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1話
火車と別れたむつは、のんびりと歩いて勤め先である事務所に戻ってきた。
「ただーいま」
「おう、おかえり。寒かったろ?コーヒーいれてやるから待っとけ」
「うん…颯介さんは?」
がらんとした事務所には、胡散臭い雰囲気を醸し出している社長の山上聖しかいなかった。ここ、よろず屋という怪異を専門に扱う会社は、だでさえ人手がない。社長の山上を筆頭に、社員のむつと今は居ない湯野颯介と、同じく今は居ない大学生のアルバイトである谷代祐斗の4人で何とか成り立っているのだ。
「湯野ちゃんなら半休だ。忘れたのか?」
「…あっ、そっか」
壁にかけてあるホワイトボードと時計に目を向けたむつは、頷いた。ゆっくり戻ってきたせいで、颯介には朝しか会う事が出来なかった。だが、何か報告などがあるわけでもないむつは、ふーんと言っただけだった。
「ほれ」
「あ、ありがと」