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2話
晃がそう言うのを聞き、むつは冬四郎の袖を引っ張った。冬四郎は何かと、首を傾けるようにしてむつの顔に近付いた。
「…どうした?」
「お母さんもお父さんも帰らないんだね」
何でだろ、とむつが言うと冬四郎も分からないようで、ゆるゆると首を振っただけだった。だが、冬四郎からしても何で2人は、まだ帰らないのだろうという感じのようだった。
むつが首を伸ばすようにして、冬四郎の頬に自分の頬をぴったりと寄せて、こそこそと話しているのが聞こえたのか、母親はにっこりと微笑んだ。
「さ、むつ帰りますよ」
「えっ…でも…あたし、今は…」
母親が手を引いて立たせようとするも、むつは嫌とは言わずとも立ち上がろうとはしない。




