2話
一瞬にして、緊張感のある恐ろしげな場へと変わった部屋から、むつはこっそり出ていきたくなったが、ドアの前には母親が立っていてそれは出来ない。それに、自分が怒られるような事をしたわけでもない事を重々分かっているだけに、恐ろしくはあってもどこか他人事だった。
「お父さん、晃さん。むつのお見合い話を勝手に進めないようにと、あれほど言いましたよね?本人が会うだけでも、と少しでも前向きならば良いとは言いましたが、むつに何も聞かずに進めるとはどういう事ですか?」
おっとりとした話し方ではあるが、その声には隠しきれていない怒りが含まれている。こういう時、大抵はすぐにごめんなさいと言いたくなるが、母親は特にそれを許さない。謝るのではなく、説明をと言うような人なのだ。
「晃さん?」
父親がきょどきょどしているのを見て、母親は晃に視線を向けた。ぴったりと向けられている視線は、矢のように鋭い。だが、母親の目元は柔らかく笑みを浮かべているようにも見える。目付きが険しくもないというのに、こうも怖い目をするのを、母親以外には知らないと思うのは、むつだけではない事だろう。




