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2話
話が途切れると、むつは思案顔となった。自分の知らない所で、勝手に見合い話が持ち上がり、進んでいる事は勿論いいとは思えない。それに、相手は自分の顔を知っていて、自分は会うまで知る事も出来ないというのも面白くはない。
「今日中にするかしないかを決めなきゃいけない?ってか、2人はする方向で進めてるもんね…でも、あたしは…」
むつがどうしたいかを言いかけた時、ばんっとドアが開いた。そして、着物姿の母親がおっとりとだが、どこか威圧感のあるような笑みを浮かべて立っていた。
「お母さんっ‼」
「か…母さん」
嬉しそうに声をあげるむつとは対照的に、父親は戸惑いを隠せないように、おどおどとしている。母親は、にっこりと笑みを浮かべて室内に入ってくると、父親を睨むように見た。厳しいが、それ以上に優しい母親が珍しくも本当の本当に怒っていると分かったむつは、開けっぱなしのドアからちらっとキッチンの方を見た。すると、冬四郎がタバコを吸いながら諦めきったような顔で、軽く手をあげた。




