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2話
寝不足な顔を隠しつつ、1日の業務を終えたむつは、寝袋を抱えて帰っていく。颯介がそれを不思議そうに見ていたが、むつは気付かないふりをしていたし山上も特に何も言わなかった。
冬四郎のマンションに帰ってくると、むつはそうっと玄関を開けた。脱ぎっぱなし、といった感じになっている靴を揃えながら、むつは少し首を傾げた。革靴が多いような気がしたが、冬四郎の靴を全て把握しているわけではないむつは、特に何も思わなかった。
静かにダイニングに入ると、当直明けで冬四郎は寝ている物だと思っていたが、起きていてキッチンに立っている。
「おかえり」
「…た、ただいま、です」
仕事と実家以外でただいまと言う事が、ほとんどないむつは少し照れたようにぎこちなかった。
「何だよ、その変な言い方」
タバコをくわえたままの冬四郎は、唇の端を持ち上げるようにして笑った。そんな笑い方をすると、威圧感もあるようで長男の晃や山上とどことなく似ている。




