1話
バカバカしいと言いたげに、火車はゆるゆると首を振っている。女の子に付き合わされて来ているわけではないとなると、同性である妖に頼まれたという事になる。以前、教会で会った時にもむつの無茶な頼みを聞いてくれた事といい、火車は頼られると嫌とは言えない性格の持ち主のようだ。それを思って、むつがくすくすと笑うと、火車はじろりとむつを見た。恐ろしい風貌には似合わず、どこまでも面倒見がよく、優しいというギャップをよくよく感じているむつは、睨まれた所で、恐ろしいとも何とも思わなかった。
「ごめんって。優しいなぁって思ってさ。で、そのお連れさんは?」
「買い物中だ。僕は…人混みに疲れたからな。外で待ってると言って出てきたんだ…全く…あれもこれもと悩んで、長いんだ」
買い物が長い連れに、嫌気がさして1人ここで待ち惚けをしているのも嫌になっているようで、いささか愚痴のようになっていた。
「ふーん?お友達は何を買いに来たの?」
「知らない。何か人に渡す物だとか言ってたが…妖が物を贈るというのも…何かな」
「その人、人間社会で生活してるんだね」
「あぁ。まぁ人と暮らしていたからだろうな。昔から、人間社会の中に居たようだぞ」
「へぇ…色んな人が居るね」