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1話
冬四郎に弁当を持たせて見送り、むつはいそいそと洗濯をしてキッチンを片付けると身支度を整えて、仕事に向かった。
電車の中は暑いくらいに暖房が効いていたが、外に出るとあっという間に芯まで凍えるようだった。むつは急ぎ足で事務所に行くと、鍵を開けて入った。まだ誰も来ていないから、室内はひんやりとしている。むつはすぐに暖房をつけて、湯を沸かす為にキッチンに入った。そして湯が沸くまでの間は、椅子に座ってぼんやりとしていた。冬四郎の所に泊まったとは言っても寝不足に変わりはなかった。
廊下を歩く足音がしてくると、むつは顔を上げてドアの方をじっと見ていた。間もなくドアが開いて、山上が入ってきた。むつがじっと自分の方を見ていると分かってか、少したじろいでいた。
「…よぉ、どうした?」
「おはよ…何でもない。寝不足なの」
「またか?」
「うん…昨日はお兄ちゃん所に泊まったんだけど。たぶん、お兄ちゃんも寝不足。悪い事しちゃったかも…今日当直らしいし」
「2人して夜更かしか?」
ゆるゆると首を振りながら、むつは立ち上がるとコーヒーをいれて戻ってくると山上に渡した。




