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1話
下唇を噛んで、拗ねたような表情をして見せるむつに、火車は微かに唇を持ち上げて笑っただけだった。だが、むつはそんな微かな表情を、しっかりと見ていた。
「…で?何してるのよ?それこそ…妖が街中で待ち合わせをしてるっぽい感じでいるけど。ってか、こっちまで出てきて…本当、何してるの?」
「いや…まぁ…むつだから、言っても構わないな。知り合いと言うか…昔から付き合いのある妖に頼まれてな、買い物に」
なかなか普通に、そこら辺に居るような人らしい事を言う火車に、むつは目を見開いた。人間社会に溶け込んで生活している妖も知っているが、人との距離を開けている火車が、そう言うのが意外でならなかった。それに加え、失礼な事に火車にも付き合いのある妖が居るという事にも驚いていた。
「…はぁ…そう、なんだ?女の子?」
「はぁ?」
「買い物に付き合わされて、わざわざ出てきてるってなると、女の子なのかなーっ?って思ってさ」