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6話
「えぇ、私もです。娘である方の手元に届ける事が出来ましたから」
むつは父親が渡そうとして渡せなかった、そして母親もきっと渡されれば受け取っていたであろう、ネックレスがきちんと落ちずにある事を確認するように、そうっと触れてみた。結婚前という事は、30年以上は前の物だろう。そっと触れないと壊れてしまいそうで怖く、大切にしなくてはと思っていた。
「…むつさん」
「あ、はい?」
ネックレスに気を取られていたむつは、名前を呼ばれてぱっと顔をあげた。すると、すぐ目の前に酒井の顔があった。何も知らないに等しい人の顔がこんな近くにあったというのに、むつは全然気にしてもいなかったのかもしれない。




