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6話
唐突に何を話し出したのか全く分からないむつだったが、酒井の話からやはり来ていたんだという事が分かった。だが、こんな場所に何をしに来ていたのだろうか。
「えぇ、もっと注意深くして…私が買い取るでもしておくべきでした。何も起こらないとばかり、思っていましたから」
「酒井さんは、何の話を…」
何の話をしているのか、とむつが聞こうとした所で、酒井は足を止めた。そして、むつを振り返った。
「あれを…見えますか?」
酒井は縛られている両手を上げて、指差している。見えるか、と聞かれてもここから見えるのは、細いロープが張られて立ち入り禁止にされているという事しか分からない。酒井のには、他にももっと見えている物があるというのだろうか。むつは、目を細めて睨むようにして酒井の指差す方を見た。だが、残念ながら何も視えはしないし感じる事もなかった。
「…何もいませんよ、今は」




