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6話
「こちらです」
車を止めた場所から、酒井はむつを案内するように先に立って歩き出した。何度となく訪れている場所なのか、酒井の足取りはしっかりしている。そのうえ、舗装されてない道だというのに、慣れている。
むつは枯れ草に足を取られないようにと、やや慎重ぎみだった。それに気付いたのか、酒井はほんの少し歩くペースを落とした。その気遣いに気付き、むつは少しだけムカついていた。信用ならない相手に、こうも気を遣われてはやりにくい事このうえない。だが、そんな気遣いも、むつにとっては自分を油断させる物なのじゃないかという疑心に満ちていた。
「この辺は…年に数回来てるんですよ。人が少なく、高齢化が進んでる土地ですから、しばらく来てなかったのですが、それがよくなかったのかもしれません」
「…よくなかった、というのは?」




