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1話
そろそろ寝ようとなり、むつの後で風呂に入り冬四郎が出てくると、むつはすでにうとうとしているようだった。
「おい、むつ…ベッド入れ」
「そしたら、お兄ちゃんは?」
「俺か?適当にその辺で寝るから」
「お布団ないの?」
「ない。人を泊める事はしないからな。毛布しかない」
「…明日、寝袋取ってくる。今夜はベッド借りるね」
むつは遠慮なくもぞもぞとベッドに潜ると、布団をしっかりとかぶった。布団はひんやりとして冷たいが、冬四郎の匂いがしていて、どこか落ち着く。今夜はゆっくり眠れそうだと、むつはふぁふぁと欠伸をすると、呟くようにおやすみなさいと言ってすぐに目を閉じた。
すぐにでも寝そうなむつの為に、冬四郎は明かりを落としたが真っ暗にはしなかった。ベッドの横に座り、灰皿を置くとゆっくりタバコを吸いながら、むつの寝顔を見ていた。




