326/1084
6話
1階のロビーでむつは、酒井に会いたいという事を告げた。約束はないので、不在なら戻るまで待つとの事を言った。確か、前に晃の元を突然訪ねた時にもこんなだったなと思い出していた。なかなかの常識外れで迷惑なやつだと自分でも思うが、図々しくしていないと居られそうにもなかった。
「…確認しますので、お待ちください」
「えぇ、お願いします」
胡散臭そうな顔をされても、むつはにっこりとした笑みを浮かべたままだった。こういう時だけは、女優かも知れないとむつは内心思っていた。そして、女なんて、皆女優なんだと意味の分からない自信を持っていた。
「お会いになるそうです。どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます」
当然といった顔で、むつは案内役で先に歩き出した警官の後についていった。




