1話
母親の口真似をするむつを見て、それが意外と似ているし言いそうだな、と納得した冬四郎は、クローゼットからアイロンとアイロン台を出してきた。制服警官から刑事になった際に、シャツはアイロンがけくらいしなくてはと買ったものの、つい面倒くさくクリーニングに出すばかりで、まだ数回しか使っていないから新品同様だった。
「スチームアイロン…使ってないの?勿体ない‼糊は?ないの?もう…何で買ったのよ」
「…うるさい」
口うるさい妹にうんざりしつつも、家でこうして会話がある事は新鮮で楽しく思える。それに、むつが甲斐甲斐しくも手際よく家事をこなしていく姿は見ていて飽きない。
「何かね、最近寝れないの」
袖口にアイロンをかけながら、むつが呟くように言った。どちらかと言えば、よく眠る方だと思っていたむつが、そんな事を言うのは珍しいと冬四郎は思った。
「何で?寝付けないのか?」
「妙に落ち着かなくて寝付けない時もあるけど…夜中に起きる事も多いの」
「寒いからじゃないのか?」
「…うーん…かなぁ?」
悩むように答えるという事は、自分ではそうではないと思っているという事だろう。何かあったんだな、と直感した冬四郎は、しゅーっとアイロンをかけていくむつをじっと見た。




