3/1084
1話
少し嫌そうではあるが、それは恥ずかしがってるような素振りでもあり、女はマスクをずらすと、ふふっと笑った。その表情は、悪戯っ子のような無邪気さが含まれていた。
「…むつ」
むつと呼ばれた女、玉奥むつは嬉しそうにますます笑みを深めると、男の隣に並んだ。
「最近、ちょくちょく会うね。火車」
「うん…喜んでいい事か?」
火車と呼ばれた男は、首を傾げながら組んでいた手をほどくと袂に入れた。道行く人が、ちらちらと見ていたのは、若そうなわりに着物を着て、つばの広いテンガロンハットのような帽子に足袋と下駄という古風さが物珍しかったからだろう。
「…嬉しくない?」
「いや、そうじゃなくて。妖が街中をうろついてる事やいくら顔見知ってるとはいえど、気安く接していいのかという事だ」
「火車ってば真面目。あたしは嬉しいのに…」