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5話
「どうした?」
「え…あ、ううん…何でもない」
むつが慌てたように、ふるふると首を振る様子を西原は目を細めて見ていたが、深く追求する事はなかった。軽く頷いただけで、他の刑事たちに盗られた物はないという事を話し、どうするかを話しているようだった。
下唇を撫でながら、何やら考え事をしているむつをちらちらと見ていた西原は、また何か隠してるなと、確信していた。だが、それは他の人が居るからなのか、それとも自分にだから話さないのかは分からなかった。
捜査に加わる事の出来ない自分が、何かと口を挟む事は出来ないが、初動捜査としてはこのくらいだろうと思っていた。鑑識が撤収していくと、事件を担当する刑事が、むつに名刺を渡して何か思い出した事があれば連絡を、とお決まりの言葉を言っていたが、聞いているのかいないのか、むつの返事は上の空だった。




