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5話
「…何が入ってる箱なんだ?」
「…つっ‼」
にゅっと顔が近付けられ、後ろから声がすると、むつは手にしていた箱を放り投げるようにして驚いた。熱い物を持った時のように、わたわたとして結局は床に箱を落とした。
「お、落としちゃったじゃんっ‼」
「ごめん、ごめん。やけに大事そうな物みたいだったから…何かと思ってさ」
後ろから声をかけてきた西原は、身をかがめて箱を拾うと、壊れてないかとひっくり返して見てからむつの手を取ってその上に置いた。
「た、宝物だよ」
「…通帳とか印鑑か?」
「そんなんじゃない。いいのっ‼先輩が知る事じゃないもん…それより、何で人の部屋に入ってくるのよ」
「あ、ごめん。つい癖で…現場だし」
「あーぁ…やっぱ、引っ越ししよ」
「えっ!?俺が入ったから?」
「そうだよ、ばかっ‼」
ぷりぷりと怒ったむつは、壊れ物を扱うようにそうっと棚に箱を置いた。そして、他に無くなってる物がないかと見て回った。怒られた西原は、納得出来ないという顔をしながら、部屋を出ていくとむつの様子を遠巻きに見ていた。




