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5話
「お前はわりかし、すーぐ人を信用するからな…ちょっと気を付けて貰わないと困るぞ」
「でも、ついて行ったりしないよ?」
「当たり前だ。お菓子あるよーって言われたからって、知らない奴にほいほいついてくようじゃ…首輪とリードが必要になる」
「…やめて。大丈夫だから」
紅茶のペットボトルを握りしめたまま、むつが真顔で言うと西原はくすくすと笑った。
信号が青に変わり、ゆったりと車を走り出すと、むつは少し体勢を変えて西原の方を向いた。車内には西原の吸っていたタバコの匂いが残っているが、それも開いている窓から外へと流れていった。
「あたし酒井さんにあたってみるつもり」
「…宮前さんもそれ承知なんだな?」
「昨日の帰りに話したし…こうなったからには」
むつは言葉を切ると、深々と溜め息を漏らした。
「嫌でも1人で行くしかないわね」
「…そうだな」
仕事のある西原は、付き添ってやる事が出来ない。1人での行動は心配になるが、むつの嫌々そうな言い方からして酒井に好意を持ってないと分かってか、少しほっとしたりもしていた。




