253/1084
5話
エレベータを降りて、部屋の番号を確認しながら向かった病室で、むつは立ち止まった。まだ名札などは出ていないが、受付で教えられた部屋だった。少し躊躇ったむつだったが、こんこんっとノックをした。室内からの返事はない。むつはどうしようという顔で、後ろに居る西原を振り返った。返事がないという事は、冬四郎も居ないのかもしれない。
だが、ややあって静かにドアが開いた。険しい表情の冬四郎が顔を出すと、ドアの前に居たむつは不安そうに顔を歪めた。
「…母さん、寝てるから静かにな」
「はい」
不安そうな顔を見た冬四郎は、ふっと表情を緩めると手を伸ばして親指で、むつの目元をぬぐった。
「何で両方の頬が赤いんだ?」
「片方はお兄ちゃんがつねった。もう片方は先輩にビンタされた」
つんっとした態度でむつが答えると、きょとんっとした冬四郎だったが、ばつが悪そうな西原の顔を見て、くすっと笑った。




