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4話
「むつ…」
ばしんっという音と頬の痛みに、涙に濡れているむつの目が、ようやく焦点が合ったかのように西原を見た。1度は収まっていた涙が、またしてもじわじわと浮かんできて、今にもこぼれ落ちそうになっている。
「…先輩っ」
くしゃっと歪んだむつの顔を見て、さすがにやりすぎたか、と西原は後悔しそうになったが、そうでもしないとむつはいつまで経っても、しゃんとしないと思ったのだ。
鼻をすすり、しゃくりあげるむつは西原に叩かれた頬に手を当てた。短時間で、2人の男から片方ずつ頬に痛みを加えられる事など、今までに経験した事ないものだった。
「痛いっ…先輩に叩かれたの初めて」
「うん。そうだな…ふざけてとかはあったかもしれないけどな。お兄さんにつねられたのも初めてか?」
「初めて…」
ぼろぼろと涙を溢しながら、むつは両方の頬をさすっている。どちらも、まだ痛むようだった。




