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4話
担架に乗せられた母親が、救急隊員たちの手で部屋から運び出されるのを、むつは何が起きているのか分からないという目で、ただ追っていた。冬四郎が救急隊員に軽く頭を下げ見送ると、すぐにむつの所にやってきた。
「むつ、よく聞けよ。俺は母さんに付き添って行く。病院は藤原さんだ。あそこなら、融通きいてくれるし信用も出来るからな。お前はどうする?西原君に頼んで、後から来るか?」
「………」
きょとんっとした顔のむつは、冬四郎を見上げているばかりだった。冬四郎は、むつが放心状態になっているのだと分かると、西原をちらっと見た。
「…任せていいか?ダメだ、こいつ」
「大丈夫です。何かあれば携帯に」
「あぁ、悪いな巻き込んで。このバカ頼んだ」
「はい」
冬四郎はむつに何か言うか迷ったあげく、真っ白く血の気のない頬をぎゅうっとつねりあげて、救急隊員を追って走って行った。




