4話
「…いいから荷物、まとめてきなよ」
邪魔だとでも言いたげに、むつはしっしと冬四郎向かって手を振った。部屋に居たのが人ではない以上、冬四郎に出来る事は出来ない。むつに言われた通りに、シャツやネクタイを掴むと鞄の中に突っ込み始めた。
むつはそれを横目に、部屋の中を見回した。全開にした窓から、冷たい風が入ってきているが、そんな事は気にしない。それよりも空気が入れ替わってきて、部屋の雰囲気も変わってきた気がした。ひんやりした風に、むつは心地良さそうに目を閉じている。
「先輩」
邪魔にならないようにと、部屋の隅っこにいた西原はむつに呼ばれるとは思わなかったのか、驚いたような顔をしていた。
「ねぇねぇ、人形持ってる?」
何の話かと西原は言われている意味が分からずに、首を傾げていた。むつが言っている人形とは、白い紙を人の形に切った物だという事は、よく知っている。それをむつが使っている場面を何度も目にしているからだ。
むつはそれ以上の説明はせずに、持っているかともう1度たずねた。少し考えていた西原は、あぁと手を打った。
「…年末のやつか?持ってる持ってる」
「持ち歩いてるんだ?」
「まぁな」
ごそごそとジャケットの内ポケットに手を入れた西原は、ぺらぺらした白い紙を取り出すとむつに手渡した。




