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4話
冬四郎は唇を動かしただけで、むつに開けるぞ、と言った。むつはこくっと頷いて、ドアの方に注目した。
ドアノブを掴んだ冬四郎は、音もなくゆっくりと回した。それだけの事なのに、むつはぞわっとした寒気に襲われた。落ち着いていられない、膝から力が抜けてしまいそうな感じだった。
だが、むつは自分を落ち着かせるように深呼吸して冬四郎を見た。冬四郎は躊躇う事なく、頷くとすぐに部屋の方に目を向けた。そして、勢いよくドアを開け放した。ばんっという音がした時には、すでにむつは室内に入っていた。かなり素早い動きに、西原は驚いたが遅れを取らないようにと続けて室内に入ったが、すぐにどんっと何かにぶつかった。何かと思えば、玄関からすぐの所でむつが立ち尽くしていた。
「…濁ってる」
「え?」
「人じゃないのが居たのよ…ずっとこの部屋に居たのかも…空気が澱んでる」
「逃げられたか?」
むつと西原の動きがないと分かってか、靴を脱いでからゆっくり入ってきた冬四郎は悔しがっている様子でもなかった。




