4話
しばらくして、颯介と山上が出社をしてきた。颯介はいつもと変わらず、挨拶をすると昨日は悪かったとこっそりと言い、机の上にコンビニで買ってきたであろうフルーツタルトを置いていった。颯介なりの、お詫びなのだと分かるとむつはすぐ機嫌よく礼を言って、さっそく食べ始めていた。
颯介とは反対に山上は、あれやこれやと聞いてきたが、むつは完全に無視だった。それも山上の方をちらりとも見ずに、表情も全く変えずにだ。山上は、そんな手強いむつを相手に、せめて表情でも変えさせたいのか、晃や西原、京井に祐斗と集まっていた者たちの名前を次々と出して、むつの気を引こうとしていた。
「…社長、諦めてくださいよ。むっちゃんのプライベートを根掘り葉掘り聞くなんて…女の子に嫌われるような事してちゃダメですよ」
いつまでも諦めない山上に、颯介がやんわりと注意をすると、山上はようやく黙った。だが、そんなに昨日の事が気になるのか、むつの方をちらちらと見ていた。
「颯介さん、このタルト美味しい。ありがと」
これ見よがしに、颯介に向かって晴れ晴れとした笑みを見せたむつは、続いて山上の方をちらっと見ると、ふんっと鼻で笑った。その態度はどう見ても、従業員が社長に向ける物ではないが、山上は何も言わずに、悔しそうに舌打ちを鳴らしただけだった。




