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1話
ぺたぺたと廊下を歩く音がすると、静かにドアが開いた。包丁を握ったいたむつは、冬四郎が来たのだと笑みを浮かべたが、それはすぐに険しい表情へと変わった。ついさっき、インターフォンで会話をしたばかりで、こんなに早く来るはずがないとむつは思った。それに、仕事終わりならばスーツを着ているはずなのに、革靴の固い足音ではなかった。
玄関の鍵を開けといたばかりに、見知らぬ人が入ってきたのだと思うとむつは身を固くした。
仕事であれば、見知らぬ者が近付いてくれば緊張はしても動けなくなるような事はない。だが、家で不審者がとなると違う。
静かに開いたドアがパタンっと閉まる音がし、ぎしっと廊下が軋む音がした。誰か、知らない者が確実に近付いてきている。キッチンともなれば、隠れる場所もなく、むつはどうしようもなくただ、何者かが近付いてくるのを待っているしかなかった。




