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1話
とんとんとんとんっと手際よく野菜を刻んでいると、ピンポーンっとチャイムが鳴った。むつは包丁を置いて、顔を上げるとキッチンから覗きこむようにして、インターフォンを見た。エントランス部分が写るようにカメラがついているが、画面には誰も写ってはいない。悪戯なのか、間違って押したのか、むつはあまり気にはせずに再び包丁を握った。
冬四郎リクエストの米に合う料理として、むつは鶏もも肉の筋を切って塩コショウを振ると、温めたフライパンに皮面を下にしていれた。肉を焼いている間に、冷凍庫から大豆の煮物を出してレンジで解凍をした。
むつがてきぱきとキッチンで動いている間に、再びインターフォンが鳴った。画面を覗きこんでみると、今度は冬四郎が写っていた。
「はーい。開けとくから入って」
『ん、分かった』
オートロックを解除して、冬四郎が入っていくのを見てから、むつは玄関の鍵を開けた。合鍵を持っているのだから、わざわざインターフォンを鳴らさなくてもと思いはしたが、勝手に入ろうとはしない辺り、冬四郎らしいな、とむつはこっそりと笑みを浮かべていた。




