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3話
再び京井の手が伸びる前にと、酒井は素早くむつの額に唇を押し当てると、そそくさと離れた。
最初とは違って、ひょうひょうとした感じで去っていく酒井を、むつは呆然と見送るしか出来なかった。
京井の刺すような視線があるからか、酒井は振り向く事もせずに、人混みに紛れるようにして大通りの方へと消えていった。そして、酒井が見えなくなるとはっとしたようにむつは京井を見た。
「遥和さん、何してるの?」
「えっ…!?」
「おーろーしーてっ‼」
ぐいぐいと京井を押しやるようにして、むつが足をばたばたとさせると京井は、仕方なさそうにむつを下ろした。
地面に下りたむつは腰に手をあてて、ふんぞり返るようにして京井を見上げた。京井は、そんなむつを見てきょろきょろと辺りを見回したが、近くには冬四郎しかいなかった。