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3話
「みずきさんにご執心だった犬は…今度は娘にご執心ってわけですか。女性が好きですね」
「………」
京井に抱き上げられているむつは、京井がぎちっと歯を鳴らすのをはっきりと聞いていた。人の姿をしていても、妖力の強い京井の静かな怒りの凄まじさを、すぐ近くで感じたむつは、くらっと目眩さえしさうだった。
酒井はそんな京井の恐ろしさが分からないのか、ゆっくりと近付いてくると、むつに顔を近付けた。
「…ご連絡くださいね」
そう言って、コートのポケットにメモのような物を落とした。むつは、こくりと頷いたが京井はちっと舌打ちを鳴らしていた。
「犬神さん、私…仮にも警察なんですよ。いきなり出てきて、人の顔を掴んで投げるなんて…傷害に当たりますから気を付けてくださいね」
「は…遥和さんそんな事したの?」
「えぇ。私がむつさんにキスしようとしたのが気に障ったようです。では、むつさん…また」




