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3話
そうっと酒井が伸ばした手が、むつの頬を包むように触れた。かさっとした乾いた手は、外に居るからなのか冷たくなっている。むつは嫌がる事はなく、少し顎を引いただけだった。その恥ずかしがるような仕草に、酒井は笑みを浮かべた。
「…名残惜しいですが、帰ります。むつさんに風邪を引かれても困りますから」
酒井がゆっくりとさらに顔を近付けてくると、むつは視線をさ迷わせたが目を閉じた。後少し、といった所でぐいっと勢いよく襟を引っ張られたむつは、ぐっと詰まった声をあげた。引っ張られるままに、仰向けに倒れそうだと思ったが腰に手が回されて、今度は持ち上げられた。
大きく身体が揺さぶられる感じに、食べた物が口から出そうだったが、それをぐっと堪えたむつは、目を開けた。胃から競り上がった物のせいが、喉が熱く痛むような感じがする。それに、気持ち悪い。
こほっと咳き込みながら、辺りを見るとやけに視線が高い。それに、少し離れた所では酒井が仰向けに倒れている。
「さっ、酒井さんっ!!」