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3話
「むつさん身の回りには…気を付けてください。今は能力も十分に発揮出来ないでしょうし…」
「…っ!?」
「ストーカーではありませんよ」
くすっと意地悪っぽく笑った酒井は、こつんとむつの額に自分の額をぶつけた。そして、ふっと溜め息を漏らした。ついさっきまで呑んでいたスパークリングワインと、デザートのチョコレートの香りが漂う吐息は、ただただ甘い物だった。だが、その甘い吐息と共に酒井の体臭なのか、紙のような墨汁のような匂いが混じっていた。その匂いが懐かしい気がして、むつはくしゃっと顔を歪めた。
「また、近いうちに…むつさんが来てくれなければ、お誘いしてもいいですか?」
「…はい」
「卑怯な奴とでも思ってください…恨まれたとしても、むつさんの中に残れるのであれば…」