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3話
「…すみません。卑怯ですよね…この話をすれば、むつさんは私に興味を持つって分かっていて、帰り際にしてるんですから」
「えぇ…最低ですね」
「これでまたお会い出来ますね」
意地悪そうに、だがどこか寂しげな表情で酒井は呟いた。拳1つ分程度しか離れていない距離で、酒井はむつをじっと見詰めていた。むつは目を反らす事もせずに、酒井の目を見返していた。それは、睨むような目付きに近かった。
「今夜はお兄さんも居ますから、私も退散しますよ。このまま、連れて帰りたいくらいですが…それは、お兄さんたちが許さないでしょうから」
たち、と複数系で言うと、酒井はちらっと辺りに視線を向けた。冬四郎の他にも兄が居るとしたら、晃だなと思ったむつは溜め息を漏らした。