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1話
『あぁ。何があったんだ?』
ふっと柔らかく優しい声に、むつはほっとしていた。ただ、あまり眠れない日が続き、今は部屋の中に理由もない違和感があるとだけという事にを話すのは、少し気が引けるようなだった。
「…うん。何となく…」
『何となく、何だ?何だよ。言ってごらん』
「やっぱり何でもないっ‼」
『…そうか?』
電話の相手、兄である冬四郎はいぶかしんでいるようで、電話越しに何かを探ろうとしているような気配さえ感じる。
『…むつはもう家か?』
「うん。今日は早く終わりにして社長と買い物して、さっき帰ってきたの」
『山上さんと買い物?そうか』
何を納得して、くっくっくっと冬四郎が電話越しに笑っているのがむつは不思議で、相手に顔が見えていないにも関わらず首を傾げていた。
『俺もさっき終わったんだ。夕飯、作ってくれよ。今から行くからさ』
「えっ!?」
『何だよ、兄貴に来られるとまずいか?』
「う、ううん…全然、全然そんな事ないけど…夕飯かぁ…何が出来るかなぁ?何食べたい?」