174/1084
3話
運ばれてきたデザートを口にしつつも、酒井の事が気になって仕方ないむつには、味どうこうなど全くといっていいほど分からなかった。それに、すでに食欲は失せてしまっていて、一口二口と手を付けただけで、スプーンを置いてしまっていた。
「…むつさん」
「酒井さん、私…今日は楽しいなって思ったんです。父親と兄がうるさいから、渋々という感じがあった事は否定出来ないですが、それでも来て良かったって…でも、酒井さんが色々含みを持たせるような事を言うので…何て言うか…今はあまり楽しくありませんし、長居きたくもないんです」
「不信感を抱かせてしまった事は申し訳なく思ってます。ですが、むつさんにまた会いたいと思うのも、今まで会いたいと思っていたのも本当なんです」
「…何で、ですか?」
「何で、でしょうね…」
ほんのりと寂しげな笑みを見せた酒井は、店員を呼ぶとお会計をと言った。むつはすぐにバッグから、財布を取り出したが、やんわりと酒井にしまうよう言われた。