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3話
酒井という人物に好感を持っていたむつだったが、今となっては警戒心が強くなっている。父親の呑み友達で晃の同期という以上に、何かあるような気がして居た。だが、手の内をすべてさらしてはくれそうにもなく、むつも迂闊な事は言えずに、様子を見るしか出来ない。
「…申し訳ありません。余計な事を言ってしまいまして…ですが、本当に…身の回りには気を付けてください」
「何が起きるんですか?」
「そこまでは分かりません。ですが、いい事ではありません…」
「…酒井さんは何者ですか?何を知ってて…そんな事をおっしゃるんですか?」
「…それは…ですが、私がむつさんに危害を加える事はありません。これは絶対にです…出来る事なら…出来る事なら、私がむつさんを守りたいんですよ」
「…え?」
「いえ、忘れてください。私も緊張して…呑みすぎたのかもしれません…そろそろデザートお願いしましょうか」
むつの返事を待たずに、酒井はデザートを頼むと、いくっとワインを飲み干した。新たに注がれたワインは、グラスの中で細かな泡をたてて、フルーティーな香りを辺りに漂わせていた。