171/1084
3話
「…いえ」
何かを言いかけて口を開いたが、何も言わずにゆるゆると首を振った酒井はワインを一口呑むと、グラスをテーブルに戻した。
「何かお悩みですか?」
「そんな事は…」
悩みと言われても、今は本当にぼんやりとしていただけだったむつは、いやいやと首を振った。
「ですが、最近…何かありましたね?」
酒井がじっとむつの目を覗きこんだ。くりっとした目ではあるが、目力は強そうだったし、あまり見られていると何だか怖くもなる。
「人ではない者が関係してるんじゃありませんか?」
「えっ!?」
むつは酒井に対して、自分が持っているはずである能力の事といい妖の事は話していない。父親も、言っていないと言っていた。そうなると、晃が言ったのだろうか。
「…当たりですか?」
「な、何で…」
何も言っていないのに、知られているという事が怖くなり、むつは酒井から距離を取るように身を反らした。