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3話
海老にかぶりつきもごもごと噛みながら、むつは酒井の方を見た。酒井は一生懸命に海老を食べているむつを、頬杖をついて眺めている。
「…むつさんのお兄さん、宮前警視正の方から食欲がないっと聞いてましたから」
「そんな事を…」
「えぇ…色々な事があったようですね。私はそこら辺伺ってませんので分かりませんが…それで食欲がなくなってるんじゃないかって聞いたんです。なので、一緒に食事しても楽しくないかもしれないが、気にしないで欲しいと…」
「かなり、お気遣い頂いて…本当に申し訳ありません。兄から、私の好きな物もお聞きになられたんですね?コースメニューとは言え、私の好きな物ばかりですし」
「えぇ。でも好きな物は聞いておかないと。ほら、初対面ですからちょっとでもいい印象残したいですから。あ、デザートも任せてくださいね。お兄さんから聞いてますから」
「…期待しときます」
むつはふて腐れたような表情をして見せたが、口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいて、それを消す事は出来なかった。