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3話
むつが恥ずかしさにうつ向きながら、ビールをちびちび呑んでいる頃、冬四郎は父親をさっさと帰らせると、何食わぬ顔でホテルの回りをぐるっと歩いていた。ここまでむつを送っている際に感じた視線は、今はない。だが、むつを迎えに行った時には何かあるかもしれないと、周辺に何があるのかを知っておく必要があると思っていた。
豪華な作りのホテルは敷地面積もかなりのもので、歩いて回るといってもわりといい運動にはなる。ポケットに手を突っ込み、散歩でもするようにゆったりとした歩みの冬四郎だったが、ホテルの裏手までやってくると、一瞬足を止めそうになった。
さっと何かが、隠れるような気配を察したからだった。暗いから、はっきりと見えたわけではない。だが、明らかに姿を、それも冬四郎には見られたくないかのように隠れたのだ。
変な視線を感じたり、不審者の事があってむつが怖がっていたのは、やはり気のせいではないのかもしれない。