3話
「…宮前って呼びにくいと思いますし、むつと呼んでください。私も宮前だと何だか…落ち着かないものですから」
学生の頃でも、宮前と呼ばれる事はほとんどなかった。それに、初対面であってもむつを宮前と呼ぶ者は、ほとんど居ない。ましてや今は、自ら玉奥と名乗ってるだけあって、宮前と呼ばれても何だかしっくりこない。それが本名であってもだ。
「では、ご本人の許可も頂けましたし、むつさんとお呼びさせて頂きます」
酒井は深い事は聞かずに、そう言った。
「それで、改めてですが、むつさんはお酒は何でも呑まれる方ですか?」
「そう、ですね…あ、でもウイスキーをロックでとかは苦手です。ハイボールなら、ですね。よく呑むのは、ビール、チューハイとワインです。酒井さんは何でも呑みますか?」
「私もウイスキーは少し苦手ですね。もっぱら、ビールに焼酎、日本酒です」
「あ、そうなんですね。それで父とも呑んだりするんですね」
「あ…お聞きになってらしたんですか。はい、お父さんとはよくお店でご一緒させて頂いてますよ。お父さんはお酒お強いですね、何でも呑まれますし」
「何でも呑みますね…そろそろ歳も歳ですし、気を付けて貰いたいんですが」
「そうは言っても、お土産にワインを持ってくるのはむつさんですよね。お父さんが、末娘は呑むのが好きなのかもしれないっておっしゃってましたよ」
そんな事を他人に言っているのかと、むつは恥ずかしく何も言えなくなり、ちびちびとビールを呑んだ。