151/1084
3話
重油式なような古臭いエレベータの乗り込み、むつはその珍しい作りにきょろっと見回した。階を表示する数字がデジタルではなく、時計の針のようになっている。
「…作りが古いですよね。確か、昭和の初期に創業されたそうですよ。むつさんが産まれるずっと前ですし、古臭いと思われるかもしれませんが」
「そうなんですか…古い感じはしてますが、清潔感がありますし…歴史を感じる物がありますね。そういう感じは、いいですね」
「そう言って貰えて良かった…」
酒井のあからさまにほっとした様子に、むつは少し首を傾げた。
「むつさんはお若いですし…こういう古臭い雰囲気は、と思いまして…」
「そんな風にお気遣い頂いて…ありがとうございます。でも、あの…和風な雰囲気は好きですので」
むつがそう言うと、酒井は嬉しそうに微笑んだ。ちんっと針が止まると同時に、エレベータが止まってがたごとと音を立ててドアが開いた。酒井が押さえてくれている間に、むつは会釈をして降りた。