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3話
「あ、いえ…あの…」
冬四郎が警視正と読んでいたからには、晃と立場は同じなのだろう。だが、腰が低いのか少しおどおどした様子が見える。
「宮前…警部補には…その、むつさんとお呼びしてもいいですか?」
確認を取られるとは思ってもいなかったむつは、こくっと頷いた。こういう事が新鮮で、何だか照れ臭い感じがした。
「夜ですしね。お兄さんにお迎えに来て頂いた方が…むつさんも安心なさいますし」
同意を求めるように見られたむつは、確かにそうだな、と思いうと、そこは素直に頷いた。その反応に酒井は傷付く様子もなく、微笑んでいた。
「酒井さんがそう言うなら…」
父親はどこか納得出来ないという顔をしていたが、自分と晃で決めた事にむつを付き合わせている以上は、何も言えないようだった。
「なら、冬四郎はどうするんだ?」
「私はその辺で少し…やる事ありますんで」
「そうか…なら、酒井さんにむつをお任せして…」
「えぇ、父さんは帰ってください」
はっきりと言われると、父親は傷付いたような顔をしたがむつは知らん顔しておいた。