3話
2人が歩いてると、すっと冬四郎の横から男がやってきた。そして前に男が回ると、むつと冬四郎は立ち止まった。
「宮前警部補」
「あっ…酒井警視正ですね。お待たせして大変、申し訳ありません」
冬四郎は柔和な愛想笑いを浮かべると、むつの手を外して頭を下げた。上下関係の厳しい組織だからか、仕事場ではなくても、こういう事はしっかりとしている。
「いえ、こちらがお呼び立てしてますから。お忙しい所を申し訳ありません…そちらが、むつさんですね」
「えぇ、妹の…」
「たっ…み、宮前むつです…遅くなってしまって、すみません」
癖なのか、玉奥と言いそうになったが、宮前と名乗るとむつはぺこりと頭を下げた。顔を上げたむつは、初対面ではあるが失礼なくらいに、まじまじと相手の顔を見た。だが、相手は何も気にしていないのか、にっこりと笑みを浮かべた。
「今夜はお呼び立てして申し訳ありません。酒井理人と申します、よろしくお願いします」
軽く頭を下げた酒井は、父親の言う通り次男の諒に似た雰囲気がある。知的なように見えるが、筋肉もしっかりとついているようで、細すぎるようにも見えない。眼鏡を外せば、また違う雰囲気になりそうだな、とむつは思ってた。