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3話
緊張すると言っているむつの様子を見ながら、冬四郎はどうしようかという顔で、辺りを見回した。ゆっくり落ち着けるような場所はなく、ただ立っていても通行の邪魔になるだけだ。
「…なぁ、見合いに関係ない話してもいいか?」
「ん?」
見合いに関係ないとなると、全然オッケーだと言いたげに、むつが顔をあげた。ハーフアップにしてある髪の毛先が、風で揺れて唇についている。グロスのついている、艶やかな唇から髪の毛を取ってやると、むつは嫌そうに頭を振った。
「何か、視線を感じないか?お前、マンションに戻ってから、何にも言わないけど全然大丈夫なのか?」
「…そういえば、大丈夫。お母さん居るから怖くないし、あんまり気にしてなかった」
「今は?」
「全然、何にも感じないけど。しろにぃは視線を感じるの?嫌な感じ?」
「嫌な感じ…そこまでじゃないけどな。何か、そんな感じがするな」
「…お兄ちゃんの知り合いなんじゃない?」
「この辺に知り合いなんか居ないはず…まぁいいか。それは、むつを送ってからで」
「調べてみるんだ?」
「…気が向いたらな」