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3話
「…どうした?」
「ううん。前にね、天野さんのお寺での仕事、お兄ちゃんが持ってきたんだけど…あたしが勝手に動いたりしても怒らなかったの。それはむつの仕事の仕方だからって、ちゃんと認めてくれてるんだって思ってさ」
「お前が無事だったら、何でもいいんだよ。あの人にとってはな…ほら、あのホテルじゃないか?」
むつと腕を組むようにして歩いていた冬四郎は、ゆっくりと立ち止まると少し前に見えてきた大きなホテルを指差した。歴史がありそうな、どっしりとしたホテルに、むつはうわぁと声をあげた。
「そうかも…遥和さんの所並みに大きい」
「待ち合わせはロビーか?」
「…うん」
ここまでやってきて、更に緊張してきたのか、むつは冬四郎の腕をぎっと握った。
「やっぱり帰るか?兄貴と親父に気を遣って行く必要なんかないぞ?それで何か言われても、母さんが激怒して終わりだ」
「また喧嘩になるのもどうかと思う。気を遣わないでいるのは、やっぱり無理かな…はぁ…本当に緊張してきた」