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3話
「はー…ドキドキしてきた」
「お前でも緊張とかするんだな」
「どういう意味?」
「心臓に毛生えてそうだから」
むつの膨れっ面が見えたのか、冬四郎はくっと笑うと、むつの頬をつついた。最近、食欲がめっきりと落ちていて前よりも肉の減った頬だったが、ぷにっとした柔らかさはあった。
「…仕事では結構後先考えずに突っ込んで行くタイプだろ?そんなお前でも緊張するんだな」
「今日はお父さんといちにぃの面子にも関わってくるもん。印象とか悪くなったら困るし」
「やっぱり、親父と兄貴の事があるから行くんだな?気にしなくていいのに」
「そうも言ってられないよ…これが、本当のお兄ちゃんとお父さんなら別なのかなぁ」
ぽろっと呟くように出たむつの本音に、冬四郎は顔をしかめた。20年以上家族として過ごしてきても、大人になるにつれて考え方も変わってくるのか、血の繋がりの事をむつは大いに気にしている。高校、大学、社会人となり、相手の顔色を伺う気配がより濃くなってきている事を、冬四郎は最近になってよく感じる事が増えてきた。