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1話
結局むつは服は1着も買う事なく、ニット帽や腕時計、ネックレスという小物類ばかりだった。
「お前、服は?」
「…いいのあった?」
「ピンとくるのはなかったな」
休憩にと立ち寄った喫茶店で、むつと山上はコーヒーをすすりながら、ゆっくりとタバコを吸っていた。山上は疲れたのか、目の前にはチーズケーキも置かれている。
「たまには、ワンピースとかどうだ?」
「ワンピースかぁ…そういえば冬物はあんまり持ってないかも。ニットワンピはあるけど丈短くて、それだけじゃ着れないやつだし」
「それ本当にワンピースか?」
「…たぶん」
山上は一口サイズに切った、チーズケーキをむつの前に持ってきた。先に一口くれるのだと分かったむつは、遠慮なく口を開けて頬張った。